ピアニストからの手紙トップ ピアノに関するQ&A-アゴーギグやテンポ・ルバートについて

ピアノに関するQ&A-アゴーギグやテンポ・ルバートについて

2020.12.28

Q:棒弾き(平べったい弾き方)にならないように少しテンポを揺らしたいので、なにかコツがあれば知りたいです。

 

A:(講師:塩川)まず、演奏されている曲において必ずしも(以下アゴーギグと言います)が必要になるのか、ということを確認しましょう。

そもそも楽曲の速度指定に作曲家が”Tempo giusto”と書いているのならば、リズムの間隔を伸び縮みさせることはあまり正解とならないでしょう。また、「ルバートなしで」や「遅く(速く)せずに」などの指定がある時は必ずその指示に従う必要があります。

それらの例外を除いた場合、ほどよいアゴーギグは曲想を豊かにしてくれます。

アゴーギグの仕方を考える際、必ずその曲の分析、作曲家の時代背景を考えるようにしましょう。

例えばベートーヴェンやハイドンなど、古典的な作曲家の作品においては、だらだらとまどろっこしいテンポの揺れというのはむしろ美しさを欠いてしまうことになります。理由としては、和声構造が比較的シンプルなことや、フレーズの構成がオーソドックスな非和声音で成り立ってることなどが挙げられます。また、時代的にテキスト原理主義的な考えもあったでしょう。

時代が下り、ショパンやリストなどロマン派時代になると、今度は楽譜に書かれていること以上に演奏者の意図を盛り込む必要がでてきます。作曲家自身が名ピアニストであり、自作曲を演奏する際は自身の裁量で聴衆を意識してより自由な演奏を目指したこともあったでしょう。

この時代によく用いられたものに「テンポ・ルバート」という独特なテンポの揺らしがありました。ルバートは直訳すると「盗まれた」という意味であり、その名の通りあるパッセージの速さを借りてきて別のパッセージに加えるというやり方を行います。この際のコツは(私は分かりやすいように「ルバートの法則」と呼んでますが)、フレーズ単位で考えた上でそのフレーズ内の標準速度を0とした場合、ある部分を遅くするとその加減に応じて-1や-2、速くすると+1や+2などとしていって、最終的にそのフレーズ内の総和が0になるように調整すると、無理のない自然なルバートになります。

もし、感性や直感頼りだと不安という場合は、このように論理的に考えるとよいでしょう。

 

 

 



PROFILE

ダリ・インスティテュート「ピアノ教室」
塩川 正和
ダリ・ピアノ教室講師
アドバンスコース特別講師

福岡第一高等学校音楽科卒業。在学中に福岡県高等学校音楽文化連盟コンクールにてグランプリ、ショパンコンクール in Asia 協奏曲C部門九州大会金賞、北九州芸術祭クラシックコンクール一般の部において最年少17歳で大賞及び県知事賞を受賞するなど、コンクールにて研鑽を積む。
また、ボルドーにて開かれたユーロ・ニッポンミュージックフェスティバルに招待演奏者として参加し、ソロ曲及びシュピーゲル弦楽四重奏団とシューマン作曲のピアノ五重奏曲を演奏し好評を博す。

フランスのパリ・エコールノルマル音楽院にフジ・サンケイスカラシップの奨学金を受け授業料全額免除で入学。
20歳にて同校の高等教育課程ディプロムを、翌年には高等演奏課程ディプロムを取得。
エクソンプロバンス・ピアノコンクールにて3位受賞、フラム国際コンクール及びフォーレ国際コンクールにてファイナリスト。

ラヴェル等のフランス印象派の作曲家作品を中心としたリサイタルやアルベニス作曲の組曲「イベリア」の全曲演奏を行うなどのほか、デュオや伴奏活動も積極的に行っている。
北九州芸術祭、長江杯国際コン クール等にて優秀ピアノ伴奏者賞を受賞。

現在は東京を中心に演奏活動を行い、ダリ・インスティテュート(ダリ・ピアノ教室)での指導のほか、日本各地で後進の指導にあたっている。
これまでにピアノを黄海千恵子、故宝木多加志、ブルーノ・リグット、イヴ・アンリ氏に、室内楽をクロード・ルローン氏に師事。

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